上野のセクキャバ嬢の口付けは遠い昔の桜の味だった

昼の桜
「佐藤さんは、写真を撮るのがお好きなんですね」
「ええ、上野に住んでいるので、アメ横や動物園に行って撮影することが多いですね。春になったら桜も撮りますよ」

「上野恩賜公園の桜ですか? 素敵! 私もスマホで撮ったりはしますけど、カメラを持っていないから……」
「桜を撮ったら、お店に見せに行きましょうか。カメラ持ってきますから」

トモコはとても嬉しそうに「ぜひ! 私もスマホで綺麗に撮ってきます」と言ってくれた。

年齢的に30手前くらいだろうか。娘ほどに年が離れている女性に胸を高鳴らせているとは。
セクキャバに来たものの、指一本も彼女に触れない私。

そんな私にトモコは、こう提案してきたのである。

上野のセクキャバ嬢の口付けは桜の味

「ねぇ佐藤さん。私とキスしませんか」
「そうだ、ここはそういうお店でしたね」

トモコとの会話を純粋に楽しんでいた私は、ただこうして会話を楽しむだけで満足だった。
こんなに年老いた男の相手を笑顔でしてくれる女性と言うのは、こうした場所でないとなかなか出会えないのかもしれない。

ただ、トモコとしても、キス等の行為をしないと、店側から何か言われるのだとしたら……。
きちんと仕事をしている姿を見せなくてはいけないのだろう。

「わかりました」
私はトモコの首に手を回し、口付けをした。

すると、桜の味が。

とても懐かしい気持ちになる。
あれは、亡くなった妻の朋子と上野恩賜公園の桜を見に行った時。
結婚前に上野恩賜公園で初めて口付けを交わしたのだった。

私の頬を涙が伝った。

「佐藤さん、どうされました?」と、心配するトモコ。
「亡くなった妻を思い出して……。気にしないでください」

トモコはそっと私を抱き締めてくれた。
彼女は、なんて優しい女性なのだろう。

朋子、お前のように。

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